1.父母の恩に感謝する
現在の自分は、母の胎内から生まれ出なければあり得ません。
つまり、父母の存在なしにこの世に生を受けることはなかった、という事実を重く見ることが大切です。
父母無くして自分の尊い人生はなかったということ、自分が赤ん坊の時、母親の犠牲無くして生き続けることができなかったこと、父親の働き無くして食を満たすことができなかったこと、少し冷静になって顧みれば解ることです。
若い後継者の集まりに出ると、父親(現社長)のことを批判して悪く言う後継者が散見されます。たとえそれが事実であっても先代社長の批判を外部の他人に公言してはなりません。自分が自社をもっと良い会社に変えていけばよいのです。
父親をライバル視し、乗り越えようとする意欲はわかりますが、父親を批判することは、自分を批判することと同じです。
世間は父親の批判を言うせがれを信用しません。したがって社内で社員に信頼されず、得意先にも信用されず「父親に対する批判」は、自分で自分を追い込んでいくことにほかなりません。
因・縁・果に例外はありません。また、何かにつけて父母のせいにすることは止めましょう。
親が生きているうちはその甘えも通用しますが、親から経営を引継ぎ、親が亡くなれば後ろに誰もおりませんから人のせいにすることができません。
すべて自分の判断と責任で解決しなければなりません。他人(社員・取引先)への感謝もさることながら、この世で最も大恩ある人(父母)に感謝することが望まれます。
まず、父母に感謝の思いを伝えましょう。父母が亡くなっている方は、心の中で「お父さん、お母さん、ありがとう」と念じましょう。
戦前教育において学校で生徒・児童は、昼食をいただく前に合掌し、「箸とらば天、土、御代の恩恵み、君と親とのご恩忘れじ」と唱和してから食を取ったといいます。戦前教育の是非はともかく、親(父母)の恩の大切さを教えてくれる話です。
2.状況は常に移り変わることを覚悟し、先を読む
現在、中小企業を取り巻く経営環境において常ざるものは何一つ無く、皆がハッピーだった時代は既に終わりました。
中小企業経営者は「先行きがますます不透明になっている」と口々にいいます。
今後も経営者は、自分の属する業種が立ちゆくのか、自社が将来存続できるのか、という不安を抱きながら経営を続けて行かざるを得ない状況です。
状況は常に移り変わっていくことを認識して変化に動ぜず、周りの協力者からオフレコ情報を仕入れたり、公表されている経済統計データなどから顧客が求めているものを見すえ、今後の自社の戦い方や方向性を決めていくことが経営者の責務であることを後継者は肝に命じなければなりません。
3.うまくいかないことに腹を立てない(辛抱強くなる)
自分の人生や経営が思い通りのものになれば何も言うことはありません。
こうなりたい、と理想を掲げたとしても現実は厳しく、現状は理想に程遠い状況にあることも多いのではないでしょうか。
例えば自社を経営していく際に、理想的な経営計画を立てたけれど実績は程遠い、と意気消沈することもあるでしょう。
しかし、理想に挑戦する過程で自分の人格を成長させることに本当の意味があるのではないでしょうか。
自分のことを棚に上げて他人のせいにする精神状態を「幼児的発想」(幼児は自分が悪いのにもかかわらず他の友達のせいにすることが多い)といわれています。
赤字会社の社長ほど、自社が赤字になっている原因を自分以外(景気が悪い、立地が悪い、社員が育たない、など)の現象のせいにしていることが多いのではないでしょうか。
後継者は、うまくいかない要因を他に求めず、耐え忍ぶ度量を身につけていくことが肝心です。
4.先代社長を立て、分をわきまえる。
後継者は、社内外を問わず、常に先代社長と比較されます。
一般的に先代社長は後継者に比べて、経験や実績、信用度などすべての面で優れ、客観的に見て後継者が先代社長より劣っているように思えるのは、やむを得ないことといえるでしょう。
積極的で勝ち気な後継者ほど、先代社長にライバル心を燃やし、周囲の評価を得ようと躍起になる傾向にあります。
また、先代社長にとっては、後継者がいくら年を重ねて立派になっても子どもは子どもであって、いつになっても頼りなく映るものです。
後継者は、この状況を踏まえて、先代社長を敬い、常に先代社長を立てる姿勢を失わないよう努力しましょう。
戦国時代の武将・武田信玄の嫡子・勝頼は、信玄の生前に全く評価されていませんでした。
そのため、信玄が没した後、自分が武田家の家督を継ぐのにふさわしいということを周囲に認めさせようと、失った領土を取り返す戦いを繰り返し、武田家の領国を疲弊させ、最後は長篠の戦いで織田・徳川連合軍に大敗し、ほどなく武田家を滅亡させてしまいました。
武田家は信玄の没後、10年ともちませんでした。後継者たるものは、現代の勝頼にならぬよう自らを戒め、驕らず分をわきまえる姿勢が大切です。
5.誠実さを失わない
昨今、老舗企業による食品偽装や産地偽装の事件が相次ぎ、新聞やテレビを賑わせています。
これらの事件の本質は、「経営者の誠実さ」が欠如していたことにあります。
経営者が自社の利益獲得だけを目的として自分さえ良ければいいと、顧客と社員に対して不誠実な対応をしたことが原因です。
多くの場合、「顧客に申し訳ない」という良心の呵責に耐えかねた社員の内部告発によって不正の事実が明るみに出て大事件に発展しています。
これら不正の首謀者は、二代目三代目などの後継者である場合も散見されます。
これらの後継者は、先代社長を含め先祖が過去に営々と築いてきた信用を台無しにしてしまいました。
人間として本来持ち得ていたはずの誠実さを失った結果、世間の厳しい糾弾を受けることになったのです。
後継者は、顧客や仕入先に対しても、また、社員に対しても誠実さを失ってはなりません。
二枚舌を使ったり、相手を陥れるなど、卑怯な発言・行動は慎みましょう。
6.努力を惜しまない
後継者は、先代社長の経営を引き継ぎ、自社を存続・発展させるために努力を惜しんではなりません。
例えば後継者が先代から経営を引き継ぎ、実質的に先代社長から経営を委ねられたとすると、その後少なくとも 5年間は、自分の休日を返上して自社の経営に専心するほどの努力が必要です。
企業の経営者は、規模の大小を問わず、社会に対する責任が大きく、経営者個人の時間や利益を他人のために費やすことが要求されます。
中小企業といえども社会の公器です。この器を引き継ぐ者は、顧客・仕入先・社員など周囲の社会に対する使命と責任を負います。
後継者は、入社当初、この会社の器に自分の人間的な器が追いついていない場合が多いものです。
自分の人間的な器を磨き、社会に対する使命と責任を果たしながら自社の器を大きくできるよう、経営に専心することが重要です。
ただし、社長就任などにより後継者の環境が大きく変わると、後継者の家庭内に不協和音が生じるケースがあります。
不協和音がひどくなると離婚に至る場合もありますので、自社の経営に専心するとともに、自分の置かれている立場を家庭内でよく話しあい、理解を求め協力していただきましょう。
7.一日一回、心を静める
後継者が自社の経営に携わるようになると、様々なストレスを受け、精神的に不安定になる場合もあるでしょう。
また、日々の仕事に追われて自分を見失うこともあるかもしれません。
会社がうまく回りはじめると自分に驕慢の心(驕り高ぶり)が生じてしまうこともあり得ます。
状況が常に変化していく中で、経営者として最良の判断を下すために一目一回、10分でも構いません。
心を静める時間を設けるとよいでしょう。
朝、少し早く起きて散歩をして、その最中に心を落ち着けながら今日の仕事の段取りをまとめるのも効果的です。
朝早く会社に出社して誰もいない部屋で瞑想してもいいかもしれません。
「早起きは三文の徳」といいます。
自分の心を見つめ、自分の心を静める機会を設けることによって、自らの精神状態をリフレッシュすることができ、新しい活力を生み出すことができます。
また、リラックスした精神状態は、ひらめきや気づきを得られる場合が多いといわれています。
8.社会(社内)のルールを守る
社会にはルールがあり、それを守ることは当然です。
同じようにすべての会社には社内のルールが存在します。
例えば朝の出勤時間から業務報告の手順に至るまで、さまざまなルールが決められています。
後継者であったとしても、例外なく社内のルールを遵守しなければなりません。
外出したきり連絡が取れなくなり行方不明になるなどの振る舞いをしていては、到底、社員の信頼を得られません。
後継者は、社長の子どもということで、給与など待遇面で他の社員に比べて優遇されている場合が多く見受けられます。
そのため、後継者は、社員から厳しい目で見られているものです。
そのことを認識し、社内ルールを厳しく守る姿勢を社員に示すことが大切です。
朝、遅刻してくる後継者は論外です。
常に社員は自分の言動を見ている、ということを忘れず、自ら社内ルールを厳守しましょう。
9.公私混同をしない
後継者は、個人的支出を経費として精算したり社員に私的な用事を命ずるなど、公私混同をしてはなりません。
先ほども述べたとおり、会社は社会の公器なのですから私事を会社に持ち込むことは厳禁です。
経営陣が不正を働けば、社員も当然まねをしますし、まねをしなくても社員の士気が向上することはあり得ません。
また、個人的支出の経費への算入は、税務上も認められるものではありません。
万が一、先代社長が公私混同をしていたとしても後継者は、決してまねをしてはなりません。自分を社員の立場に置き換えてみれば、容易にわかることです。
10.社員とその家族の生活を守る
後継者が自社を経営していく上で第一優先に考えなければいけないことは、社員とその家族の生活を守ることです。
法政大学大学院政策創造研究科教授の坂本光司先生は『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)の中で次のように述べておられます。
「会社経営とは『五人に対する使命と責任』を果たすための活動であり、五人に対する使命と責任を果たすための行動とは、
一、社員とその家族を幸せにする
二、外注先・下請企業の社員を幸せにする
三、顧客を幸せにする
四、地域社会を幸せにし、活性化させる
五、自然に生まれる株主の幸せ」
長くなりますが「一、社員とその家族を幸せにする」について抜粋します。
「五人の一番目は、社員とその家族です。
会社に所属している社員と、その社員を一生懸命支えている家族を幸せにすること。
これが、社会の公器である会社が果たすべき、第一の使命です。
『多くの会社は“お客様が第一野としているのになぜ?』と思われるかもしれません。
私達が社員を一番にあげる理由は、お客様を感動させるような商品を創ったり、サービスを提供したりしなければいけない当の社員が、自分の所属する会社に対する不平や不満・不信の気持ちに充ち満ちているようでは、ニコニコ顔でサービスを提供することなどできるわけがないからです。
所属する組織に対する満足度が高く、帰属意識が高い社員でなければ、お客様が満足するようなサービスを提供することなど到底できません。
目の肥えたお客様には、うわべだけのニコニコ顔は、すぐにバレてしまいます。
繰り返しいいますが、自分が所属する会社に不平と不満・不信を抱いている社員が、どうしてお客様に身体から湧き出るような感動的な接客サービスができるでしょうか。お客様が感動するような製品が創れるでしょうか。
ですからいちばん大切なのは、社員の幸せなのです。社員と、それを支える家族の幸せを追求し実現することが、企業の最大の使命と責任なのです。」
経営者が「社員とその家族を幸せにする」とは具体的に、社員の働きやすい環境をつくり、やる気が継続できる職場を提供し、社員の給与を1円でも多く払い、社員が周囲から「良い会社に入ってよかったね」といわれ、プライドを持てるような会社にしていくことではないでしょうか。
後継者の中には社員を道具のように扱う例も見られ、これでは到底社員の信頼は得られず、先代の徳を使い果たすのみで業績向上・業績維持など望むべくもありません。
学校卒業後、直接、親の会社に勤めるようになった後継者は、自分自身が社員になったことがないため、社員の気持ちを推し量ることができない場合がありますので社員への対応には特に留意する必要があります。